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2014年5月 3日 (土)

木・岩・雲

カーソン・マッカラーズという女流作家をご存じだろうか。彼女は、アメリカ南部の出身で、8冊の本を書き、1967年に50歳で亡くなった。

私の手元には、ペーパーバックの短編集"The Ballad of the Sad Cafe(悲しき酒場の歌)"がある。中に収録されている”A Tree. A Rock. A Cloud.(木・岩・雲)”に、40代の私は大きな影響を受けた。

http://homepage.ntu.edu.tw/~karchung/A_Tree.pdf (英語原文)
http://f59.aaacafe.ne.jp/~walkinon/tree.html (和訳)

たったこれだけのお話であり、何を読み取るかはすべて読者にゆだねられている。

われわれの一生は邯鄲一炊の夢というが、それはまた一人の異性を愛し損ない、放浪し続ける中で、深い真理を発見することでもある。自分に正直に生きると、世の中からは気のふれた落伍者とみなされ、普通の生活を失ってしまう。しかし、そういう落伍者・放浪者が送っているものこそ本当の人生なのではないか。

作品の一場面一場面に神経繊維が流れ出すような静かな迫力がある。これを30歳そこそこのマッカラーズが書いたのである。

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人生後半になって、誰でも「自分は結局何がしたいのだろう」と考えることがあるだろう。高い社会的地位や富を手に入れること、良い車に乗ること、りっぱな家を建てること、世界旅行をすること、高価なワインに酔いしれること、高名な絵画を購入すること。どれも悪いこととは思わない。しかし、これらは誰にでもできることではない。

マッカラーズの一篇は、無料ですぐに誰にでも読める。こういう作品(小説とは限らない。絵画でも映画でも音楽でもよい)を毎月一篇ずつでも鑑賞できれば、そうとうに満足な後半生が送れるだろう。

だが、今の世の中では、このことは、名利を求め続けるよりもずっとむずかしいことだ。

(坂井)

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